『ハートフルなさき編み 東北の地から届いた』

最近、無心の力についてよく考える。人が没頭して作られた作品から、すごいエナジーを感じるようになったからだ。作品の完成度の解釈は人それぞれだが、私はその対象物にどれくらいのエネルギーと時間をかけ、没頭して創ったかによると考えている。無心状態で創られた作品は高い完成度に直結し、作品に対する思いは見る人へとダイレクトに伝わっていくだろう。

本書には宮城県の被災地、東松原市で結成された編み物チームによる、裂き編みで創られた作品が紹介されている。そのため読み物よりも、むしろカタログに近い。中身はコースターやバッグ、コサージュなど商品のラインナップが掲載されている。商品写真がとても美しいので、まるでワンランク上の生活を提案するかのようなショッピングカタログにも思える。

先日、これらの商品を実際に確かめる機会があった。手にとってみると想像した以上に作り手の気持ちが込められており、制作者の一生懸命な思いが伝わってきた。素材はすべて不要になった洋服だ。厚手のコットン生地はコースターやマットになり、Tシャツはサンダルに、ジーンズはトートバックへと生まれ変わっていた。コツコツ描かれた絵画のような、100%手作りの暖かみがある。

オーダーメードバッグ
未曾有の被害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災は、日本および世界中に大きな衝撃を与えた。著者の野田治美さんは、震災後ボランティアとして、最初は避難所に支援物資を届け分配する作業を行っていた。避難所生活が落ち着いて暫くすると、避難している人達の多くは仮設住宅に移転する。すると仮設では共通して新しい問題が待ち受けていた。毎日が無気力になっていくのだ。
子供とおむつだけを手にもって避難し、あと30秒遅れていたら生きていなったかもしれない女性。「津波だ」の声に追い立てられるようにして2階に逃げ、カーテンにつかまり、襲いかかる波から九死に一生を得た女性。そんな家族や友人を失った彼女達は、生きる目的を見いだせずにいたのた。
著者の野田さんは、そのような女性達に自立支援の必要性を感じた。アパレル時代の経験を生かし、指編みの手仕事プロジェクト<Tsubomi つぼみ>をスタートしようと決意した。彼女達の生きがいと、実際に生活費としてのお金を稼ぐ機会をつくろうとしたのだ。最初、<Tsubomi つぼみ>メンバーには全く編み物の経験もない人もいたため、小さな子供でもできる簡単な指編みから始まった。
最初は先の見えないプロジェクトだったけど、そのうち、支援した人達からのたくさんの毛糸やビーズ、生地など手芸材料が集まりました
野田さんは語る。被災者の女性達は部屋で一人、何もしないで考え込んで落ち込んでいるよりも、仕事でも編み物でも夢中になれるものがほしかった。編み物をしている間だけは、地震や津波のことを忘れて時間が過ごせる。次第に<Tsubomi つぼみ>メンバーは集会所で交流を深め、生き残った命の大切を感じるようになってきた。今では、前進あるのみ。と前向きに取り組むまでになった。
この活動の魅力の一つは、循環型支援である点だ。各地から提供された布や毛糸、衣料などが再利用され、製品となる。つまりリサイクルでもありフェアトレードでもあるリデザインなのだ。本書には裂き編みの方法として実際にバッグなどが製作できるハウツーも掲載されている。器用な方はチャレンジしてみはどうだろうか。
女性達は机がたりないときは、床で作業もする。そこまで作業にのめりこめるのは、「自分が生きている実感」を得たためだろう。没頭し作業していく中に、生きる実感が伴ったからこそ、これら商品は魅力的に思えるのだろう。
誰もが感じる喜びや生きがいは、自分の存在を認められ、必要とされることで得られる。商品の販売報酬を初めて受け取った女性達は、そのお金を使わずに神棚に飾ったそうだ。そんな人達なのである。本書の購入費の一部は、彼女達への支援となる。
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『生きていく絵――アートが人を〈癒す〉とき』
絵を描くことで今日を生きる支えとしている精神患者達の感動物語。私達は、他者との関わり合いの中でしか生きられない。表現することで生きている。レビューはこちら

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