[書評]構造をデザインする『メカニックデザイナーの仕事論』

投稿者: Atelier Arai Fuzuki 投稿日:

大河原 邦男
光文社
コメント: [書評]構造をデザインする『メカニックデザイナーの仕事論』

子供の頃、ガンダムのプラモを組み立てている際、モビルスーツとは別に飛行機であるコアファイターの部分が余っていたので、それと当時流行っていた「チョ ロQ」のゼンマイ機構を組み合わせていたことがある。勝手に「コアチョロQ!」と名づけ、それはウイングが格納しプルバック走行するオモチャで、我ながら 本格的だと興奮していた。男の子には、変形や合体する機械を見るとテンションが上がるDNAがあるのかもしれない。
本書は、数多くのアニメに携わってきたメカニックデザイナーが、40年以上に及ぶ仕事を振り返った一冊だ。タツノコプロでの修業時代や『機動戦士ガンダ ム』でのザクが誕生した思い出なども綴られている。その文体も「この超合金が、こうやって変形しますよ」と、普通に理解できるので、アニメやメカに詳しく ない人でも読みやすい。最近は東京五輪エンブレムや新国立競技場に関するデザインが問題視されているが、デザインの本質が問い直される風潮の中、本書には 打開策が随所に見つかる。
著者の大河原邦男はアパレルを経てタツノコプロに入社。『科学忍者隊ガッチャマン』でデビューし、以降メカニックデザイナーとして活動する。主な作品に 『タイムボカンシリーズ』『機動戦士ガンダム』『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』『銀河漂流バイファム』『勇者エクスカイザー』『新機動戦記ガン ダムW』『機動戦士ガンダムSEED』などがある。どれかは耳にしているタイトルだろう。

構造のデザイン

メカニックデザイナーには2種類のタイプがあり、絵が好きなデザイナーと、メカが好きなデザイナーがいる。前者は見た目の格好良さに主軸をおくた め、見栄えは良いのだが360度立体視点で耐えれない場合が多い。だが、それだとプラモや玩具などにしたときに面がつながらなかったり、構造がおかしくて 腕が曲がらないなどの弊害が出てしまう。そして著者は完全に後者のメカが好きなデザイナーである。著者が心がけているのは、空想のアニメだから好き勝手に デザインしてよいのではなく、たとえアニメの世界であったとしても「嘘のないデザイン」をすることだ。
著者はメカを描くだけでなく、モックアップ(模型)を作ることでも知られる。アトリエの隣にはオリジナルの工房があり、施盤、プラズマ切断機、レーザー加 工機、アルゴン溶接機なども揃っており、iPhone用スピーカーやボールペンなどは自分で製造できる。(通称:大河原ファクトリー)。そのモックアップ は非常に重要な要素で、玩具メーカーに「これが変形して、合体します。これは子供は喜びますよ」といったプレゼンテーションもできる。本来は玩具メーカー の仕事であるが、メカ全盛期の当時は、超合金玩具のウリだった変形や合体の検証にも役立ち、スポンサーやプロデューサーへの説明に都合がよかった。機械に 囲まれた中、想像しているだけで楽しいという著者は、文章から本当にものづくりが好きな愛が伝わってくる。
タツノコプロに入社した当時は先輩メカデザイナーである中村光毅の下で背景を描いていたが、やがてメカのデザインを担当するようになる。著者は中村氏に対 してすぐに「あ、この人には一生かなわないな」と感じたそうだ。絵を描いているとわかるのだが、線一本で絵の上手い下手というのはわかるものである。うま い人は、あらかじめそこにある線がわかっていたかのように、迷いなくサッと引く。著者も、その核の違いがわかる人だった。「中村さんの描く線はまさにそれ だった」と語り、さらには「この世には、いくら努力しても決して埋まらない差というものがあるんですよ」とも加えている。

では絶対的なセンスの差をどこでカバーするのかというと、著者の場合は構造であった。そこからアニメ特有の誇張も加えていく。特に主役メカのデザイ ンには「こけおどし」が必要になってくる。例えば日本の甲冑、西洋甲冑の形状は敵を威圧する効果がある。鎧兜を見ていると重そうで実践には不向きだけど、 とても強そうに見える。
 

角や肩など。その姿を見て敵の武将は強そうだなと恐れおののくのです。その派手さが重要なのです。

たしかに兜には立物とよばれる装飾部分がついていて、額の左右に飛び出した角なんて戦いには役にたたなそうだけど、あると強そうだ。ガンダムにも角はあるし、ボディと肩は裃のようにも見える。著者はこうしたデザインのヒントを常に探している。そういった真摯な態度も仕事に結びついているのだろう。
決して仕事は断らず、また締め切りを守るなど、著者は仕事請負人のような印象だ。しかし、一度それらは形になり玩具になると、監督もスポンサーサイドも喜 ぶ。没頭できるもの、人の出会い、偶然携わるようになったアニメやオモチャという形によって、著者の創造物は世界中のファンと繋がるようになった。

著者は本書について、アニメや実際にガンダムに興味をもたない人達が読んで「仕事とは何か」「ものを作るとは」を考えるきっかけになってほしいと 願っている。もちろん懐かしいロボやメカも登場するので、子供時代に心ときめいたデザインも登場しワクワクもする。長く続くヒットの裏には、普遍的な仕事 についてのヒントが満載であった。 

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